大人の学び直し数学②:平方完成

数学の部屋

前回の記事「展開」で、代数計算の礎となる公式を習得し、練習問題で知識を定着された皆様、お疲れ様でした!

「展開」は式を広げる作業でしたが、今回学ぶ「平方完成(Completing the Square)」は、代数操作のテクニックです。
これは、二次方程式の解の公式を導く基礎であり、高校数学の最重要スキルの一つとも言えます。

さらに、このスキルは量子力学においても鍵となります。
複雑なポテンシャル(粒子のエネルギーの地形)を扱う際、平方完成を使うことで式の形をシンプルで意味のある形に整理し、最小エネルギー安定した状態を瞬時に読み取ることができるようになるからです。

今回は、前回の展開の知識を総動員し、「\(x^2\) の係数が \(1\) ではない場合の処理」など、応用的な平方完成の極意を完全に習得することを目指しましょう。

第1章:平方完成とは 👉 展開の逆利用

平方完成とは、二次関数 \(y = ax^2 + bx + c\) を、グラフの頂点の座標がわかる形である標準形 \(y = a(x – p)^2 + q\) に変形する操作です。

\(\mathbf{p}\) は頂点の \(\mathbf{x}\) 座標(グラフの左右の位置)を、\(\mathbf{q}\) は頂点の \(\mathbf{y}\) 座標(グラフの上下の位置、つまり最小値・最大値)を決定します。

この操作の原理は、前回学んだ和と差の平方の公式、つまり完全平方式にあります。

【差の平方の公式】\(\quad (x – a)^2 = x^2 – 2ax + a^2\)

※ \(\quad (x – a)^2\) 👈 これが完全平方式

平方完成は、元の式 \(\mathbf{x^2 – 2ax}\) という不完全な式を見て、
「あと \(a^2\) があれば、\(\mathbf{(x – a)^2}\) という完全な二乗の塊になる!」
と考え、その足りない \(a^2\) を強引に「足して引く」ことで形を変えるテクニックなのです。

鍵となる数 \(a\) の見つけ方

\(x^2 + \mathbf{b}x\)
\( \quad \to \quad a = \frac{\mathbf{b}}{2}\)
\( \quad \to \quad \text{足すべき数 } a^2 = \left(\frac{b}{2}\right)^2\)

第2章:基本の型を徹底習得:係数が \(1\) の場合

まずは、最も基本となる \(x^2\) の係数が \(1\) の型で、操作手順を体に染み込ませるため、例題を示します。

解き方のヒントも記述していますが、読むだけではなく、実際に自分でも解いてみてくださいね。

例題1:定数項がない場合

以下の二次関数を平方完成せよ。

\(y = x^2 + 10x\)

ヒント:

  1. 鍵となる数 \(a\) を特定: \(x\) の係数 \(\mathbf{+10}\) の半分は \(\mathbf{+5}\)。
  2. 必要な \(a^2\) を足して引く: \(5^2 = \mathbf{25}\) を足して引きます。
    👉 \(y = (x^2 + 10x + \mathbf{25}) – \mathbf{25}\)
  3. 変形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
    \(y = \mathbf{(x + □)^2 – □}\)
答えを見る

\(y = \mathbf{(x + 5)^2 – 25}\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(-5, -25)}\)

注意すべきポイント:頂点座標の符号ルール

正解の式は \(y = \mathbf{(x + 5)^2 – 25}\) なのに、頂点の座標は \(\mathbf{(-5, -25)}\) です。
なのに、なぜ最初の\(5\)はマイナスなのかと、答えを見て不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。

これは、多くの初学者がつまずく重要ポイント頂点座標の符号ルールによるものです。

標準形 \(y = a(x – p)^2 + q\) における頂点 \(\mathbf{p}, \mathbf{q})\) を見るとき、次の非対称なルールを意識しましょう。

要素場所ルール
\(x\) 座標 (\(p\))カッコの内側符号を反転させる
\(y\) 座標 (\(q\))カッコの外側符号はそのまま

\(x\) 座標 (\(p\)) の符号が反転する理由は、頂点の \(x\) 座標は、括弧の中を \(\mathbf{0}\) にする \(x\) の値だからです。
\(\mathbf{(x+3)}\) なら \(\mathbf{x=-3}\) で \(0\) になります。

それに対し、\(y\) 座標 (\(q\)) は、グラフ全体の上下移動(最小値・最大値)をそのまま表しているため符号は反転させず、そのままです。

例題1:定数項がある場合

以下の二次関数を平方完成せよ。

\(y = x^2 – 4x + 7\)

ヒント:

  1. 鍵となる数 \(a\) を特定: \(x\) の係数 \(\mathbf{-4}\) の半分は \(\mathbf{-2}\)。
  2. 必要な \(a^2\) を足して引く: \(-2^2 = \mathbf{4}\) を足して引きますが、今回は定数項の\(7\)があるので注意してください。
    👉 \(y = (x^2 – 4x + \mathbf{4}) – \mathbf{4} + 7\)
  3. 変形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
    \(y = \mathbf{(x + □)^2 – □}\)
答えを見る

\(y = \mathbf{(x – 2)^2 + 3}\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(2, 3)}\)

第3章:難所の克服:係数 \(a \ne 1\) の場合

量子力学で扱う数式では、常に \(x^2\) の係数が \(1\) とは限りません。
むしろ、\(x^2\) の係数に、粒子の質量やポテンシャルの強さなど、\(\mathbf{1}\) ではない物理的な定数が関わってくる場合がほとんどです。
したがって、平方完成のスキルとしては、係数 \(a \ne 1\) の処理(くくり出しと分配)こそが、最も重要かつ実用的なスキルであると言えます。

この応用的な処理こそが、平方完成の極意です。

絶対ルール:

平方完成を始めるには、必ず \(x^2\) の係数を \(1\) にしなければなりません。

例題3:係数がある場合の計算

以下の二次関数式を平方完成せよ。

\(y = 2x^2 + 8x – 1\)

ヒント:

  1. 係数でくくり出す: \(x^2\) と \(x\) の項を、係数 \(\mathbf{2}\) でくくり出します。
    👉 \(y = \mathbf{2}(\mathbf{x^2 + 4x}) – 1\)
  2. 括弧の中を平方完成: 括弧の中の \(\mathbf{x^2 + 4x}\) だけを、鍵となる数 \(a^2 = 2^2 = \mathbf{4}\) を使って変形します。
    👉 \(y = 2\{(x – 2)^2 – \mathbf{4}\} – 1\)
    (ここでは、中括弧 \(\{ \}\) を使って、外側にくくり出した \(2\) と分けるのがポイントです)
  3. 係数を分配し整理 (最重要): 外側の \(\mathbf{2}\) を中括弧の中の両方の項にかけます。
    👉 \(y = 2(x + 2)^2 + (\mathbf{2} \times \mathbf{-4}) – 1\)
    👉 \(y = 2(x + 2)^2 – 8 – 1\)
  4. 最終形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
    \(y = \mathbf{2(x + □)^2 – □}\)
答えを見る

\(y = \mathbf{2(x + 2)^2 – 9}\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(-2, -9)}\)

例題4:係数が負の場合の計算 (符号に注意)

以下の二次関数式を平方完成せよ。

\(y = -3x^2 + 6x – 4\)

ヒント:

  1. 係数でくくり出す: \(x^2\) と \(x\) の項を、係数 \(\mathbf{-3}\) で括り出します。 (注: \(6x\) を \(-3\) で割るため、符号が変わります! \(6 / (-3) = -2\))
    👉 \(y = \mathbf{-3}(\mathbf{x^2 – 2x}) – 4\)
  2. 括弧の中を平方完成: 括弧の中の \(\mathbf{x^2 – 2x}\) だけを、鍵となる数 \(a^2 = (-1)^2 = \mathbf{1}\) を使って変形します。
    👉 \(y = -3\{(x – 1)^2 – \mathbf{1}\} – 4\)
    (ここでは、中括弧 \(\{ \}\) を使って、外側にくくり出した \(-3\) と分けるのがポイントです)
  3. 係数を分配し整理 (最重要): 外側の \(\mathbf{-3}\) を中括弧の中の両方の項にかけます。
    👉 \(y = -3(x – 1)^2 – (\mathbf{-3} \times \mathbf{-1}) – 4\)
    👉 \(y = 2(x – 1)^2 + 3 – 4\)
  4. 最終形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
    \(y = \mathbf{2(x – □)^2 – □}\)
答えを見る

\(y = \mathbf{2(x – 1)^2 – 1}\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(1, -1)}\)

例題5:分数が登場する場合の処理 【応用】

以下の二次関数式を平方完成せよ。

\(y = 4x^2 – 2x + 5\)

ヒント:

この二次関数は係数 \(2\) で括り出せば 分数を使わずに済むのですが、\(4\) で括り出します。
なぜ \(2\) ではなく、係数 \(\mathbf{4}\) でなければならないのでしょうか?
それは、平方完成を始めるための絶対ルールだからです。
平方完成のテクニック(\(x\) の係数を半分にして二乗する)は、必ず \(x^2\) の係数が \(\mathbf{1}\) であるという前提でのみ機能します。
そのため、元の係数(この場合は \(4\))で \(x\) の項までを強制的に括り出し、\(x^2\) の係数を \(1\) にする必要があるのです。

  1. 係数でくくり出す: \(x^2\) と \(x\) の項を、係数 \(\mathbf{4}\) で括り出します。 (注: \(-2x\) を \(4\) で割ると、\(\mathbf{\frac{-2}{4} = -\frac{1}{2}}\) となります。)
    👉 \(y = \mathbf{4}(\mathbf{x^2 – \frac{1}{2}x}) + 5\)
  2. 括弧の中を平方完成: 鍵となる数 \(a\)は \(-\frac{1}{2}\) の半分 \(-\frac{1}{4} \) です。 \(a = -\frac{1}{2} \div 2 = -\frac{1}{4}\) を使って変形します。
    👉 \(y = 4\left\{\mathbf{\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 – \frac{1}{16}}\right\} + 5\)
  3. 係数を分配し整理: 外側の \(\mathbf{4}\) を中括弧の中の両方の項にかけます。
    👉 \(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 + \left(\mathbf{4} \times \mathbf{-\frac{1}{16}}\right) + 5\)
    【定数項の計算】
    \(\mathbf{4 \times \left(-\frac{1}{16}\right) = -\frac{4}{16} = -\frac{1}{4}}\)
    👉 \(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 – \frac{1}{4} + 5\)
    👉 \(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 \mathbf{+ \left(5 – \frac{1}{4}\right)}\)
    👉 さらに通分します。\(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 + \left(\frac{20}{4} – \frac{1}{4}\right)\)
  4. 最終形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
    \(y = \mathbf{4(x – □)^2 + □}\)
答えを見る

\(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 + \frac{19}{4}\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(\frac{1}{4}, \frac{19}{4}\right)}\)

第4章:分数入り平方完成 集中特訓

練習問題1

次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。

\(y = 2x^2 + 6x – 5\)

ヒント:

\(6\) を \(2\) でくくり出すと、\(6 \div 2 = 3\) になります。\(3\) の半分は \(\frac{3}{2}\) です。

答えを見る

\(y = 2\left(x + \frac{3}{2}\right)^2 – 14\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(-\frac{3}{2}, -14\right)}\)

練習問題2

第2問目は負の係数が絡んでくる問題に挑戦し、符号ルールも同時に確認しましょう。
次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。

\(y = -4x^2 – 12x + 1\)

ヒント:

係数 \(\mathbf{-4}\) でくくり出す際、括弧の中の符号がどうなるか注意してください。

答えを見る

\(y = -4\left(x + \frac{3}{2}\right)^2 + 10\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(-\frac{3}{2}, 10\right)}\)

練習問題3

次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。

\(y = 3x^2 – 2x + 4\)

ヒント:

\(3\) で括り出すと、\(x\) の係数は \(\mathbf{-2/3}\) となります。この半分は \(\mathbf{-1/3}\) です。

答えを見る

\(y = 3\left(x – \frac{1}{3}\right)^2 – \frac{13}{3}\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(\frac{1}{3}, -\frac{13}{3}\right)}\)

練習問題4

次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。

\(y = -5x^2 + 10x + 2\)

ヒント:

\(\mathbf{-5}\) で括り出す際の符号に注意してください。今回は定数項の通分は比較的簡単です。

答えを見る

\(y = -5(x – 1)^2 + 7\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(1, 7)}\)

練習問題5

次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。

\(y = -2x^2 + 5x – 3\)

ヒント:

\(-2\) でくくり出すと、\(x\) の係数は \(\mathbf{-\frac{5}{2}}\) となります。この半分の計算に細心の注意を払ってください。

答えを見る

\(y = -2\left(x – \frac{5}{4}\right)^2 + \frac{1}{8}\)

\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(\frac{5}{4}, \frac{1}{8}\right)}\)

まとめ

今回の「平方完成の極意」を習得することで、代数操作のスキルを大きく向上させられます。

平方完成は、エネルギー最小化ポテンシャル井戸の問題など、量子力学の数式を解析的に解くための強力な武器となります。
特に、係数のくくり出しと分配のステップや、最後の分数を使用した応用問題は、何度でも反復して練習してください。

分数が入ってくると、計算手順が増えるだけでなく、「通分」という追加の手間がかかるため、面倒でミスも増えやすくなります。
しかし、量子力学の数式では、分数の係数が頻繁に出てきます
これは、物理的な定数(質量 \(m\) やプランク定数 \(\hbar\) など)が分数や定数の逆数として現れるためです。

よって、この面倒な分数計算を正確にやり遂げる粘り強さが、量子力学の数式を解き進めるために非常に重要になります。
今は面倒に感じるかもしれませんが、繰り返し練習することで、この計算はパターン化され、速度と正確さが劇的に向上します

「もっと繰り返すための練習問題を増やしてほしい」、「練習問題にも解き方の経緯を載せてほしい」などのご要望がありましたら、ぜひコメント欄でお伝えいただければ幸いです!

次回は、学び直し数学シリーズ第3回として『大人の学び直し数学③:三角比の基礎』に進みます。

それでは、また次回の学び直しでお会いしましょう。

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