前回までで、指数 \(x\) は整数から分数へと拡張され、すべての有理数 \(p\) に対して \(a^p\) を矛盾なく定義し、統一された指数法則のもとで計算できるようになりました。
これにより、\(a^2\) や \(a^{\frac{1}{2}}\) といった計算はマスターしましたが、まだ一つ、数直線上に「穴」が残っています。無理数です。
関数 \(y = a^x\) のグラフを考えるとき、このグラフは途切れることなく、滑らかで連続していなければなりません。
しかし、\(\sqrt{2}\) や \(\pi\) のような無理数を指数に持つ値が定義されていない状態では、グラフは連続しません。
今回の記事のテーマは、この「穴」を埋めることです。
有理数で囲まれた極限操作を利用して無理数指数(実数指数)を定義し、すべての実数 \(x\) に対して成立する指数関数 \(y=a^x\) の世界を完成させましょう。
目次
第1章:無理数指数と実数指数:連続性のための拡張
1.1. 無理数指数 \(a^{\sqrt{2}}\) の定義方法
前回までで指数は有理数全体に拡張されましたが、指数関数 \(y=a^x\) を連続したグラフとして定義するためには、 \(\sqrt{2}\) や \(\pi\) のような無理数指数を定義する必要があります。
無理数とは循環しない無限小数であり、分数指数のように単純な代数的操作で定義することはできません。
そこで、極限(限りなく近づく操作)の考え方を利用して無理数指数を定義します。
具体的な例として、\(2^{\sqrt{2}}\) の定義を考えてみましょう。
\(\sqrt{2}\) はおよそ \(1.41421356…\) という無限小数です。
この \(\sqrt{2}\) に限りなく近づく有理数の列(近似値)を利用します。
| \(\sqrt{2}\) より小さい有理数 \(p_n\) (下からの近似) | \(\sqrt{2}\) より大きい有理数 \(q_n\) (上からの近似) |
|---|---|
| \(p_1 = 1.4\) | \(q_1 = 1.5\) |
| \(p_2 = 1.41\) | \(q_2 = 1.42\) |
| \(p_3 = 1.414\) | \(q_3 = 1.415\) |
| \(p_4 = 1.4142\) | \(q_4 = 1.4143\) |
| \(\dots\) | \(\dots\) |
上記の有理数の列を使って、底 \(a=2\) の指数 \(2^x\) を計算すると、次の表のようになります。
| 下からの有理数指数 \(2^{p_n}\) | 上からの有理数指数 \(2^{q_n}\) |
|---|---|
| \(2^{1.4} \approx 2.639\) | \(2^{1.5} = 2.828\) |
| \(2^{1.41} \approx 2.657\) | \(2^{1.42} \approx 2.675\) |
| \(2^{1.414} \approx 2.664\) | \(2^{1.415} \approx 2.666\) |
| \(2^{1.4142} \approx 2.6651\) | \(2^{1.4143} \approx 2.6653\) |
| \(\dots\) | \(\dots\) |
\(p_n\) が \(\sqrt{2}\) に近づくにつれて \(2^{p_n}\) の値は増加し、 \(q_n\) が \(\sqrt{2}\) に近づくにつれて \(2^{q_n}\) の値は減少します。
そして、この二つの値の列は、ある一つの決まった実数値に限りなく近づいていきます。
この挟み撃ちの操作によって、\(2^{\sqrt{2}}\) の値は次のように極限として定義されます。
\(\displaystyle \lim_{n \to \infty} 2^{p_n} = \lim_{n \to \infty} 2^{q_n} = 2^{\sqrt{2}}\)
- \(\lim\):「Limit(極限)」の略です。数学では、「限りなく近づく」操作を表す重要な記号です。
- \(n \to \infty\):「\(n\) を「無限大」(限りなく大きな数)にする」という意味です。ここでは、近似計算を無限に続けることを意味します。
つまり、有理数指数 \(2^{p_n}\) が限りなく近づく値を、無理数指数 \(2^{\sqrt{2}}\) の値として定義するということです。
1.2. 実数指数の定義の完成
極限による定義は、すべての底 \(a>0\) とすべての無理数 \(x\) に対して適用できます。
実数指数の定義
指数 \(x\) が無理数であるとき、その無理数に収束する有理数 \(p_n\) を用いて次のように極限として \(a^x\) の値を定義する。
\(\displaystyle a^x = \lim_{n \to \infty} a^{p_n}\)
この定義によって指数 \(x\) は実数指数としても扱えるようになり、実数全体を定義域とする指数関数 \(y=a^x\) を本格的に考える土台が整いました。
第2章:指数関数 \(y = a^x\) のグラフと単調性
2.1. 指数関数とは
指数関数 (Exponential Function) とは、底 \(a\) が定数(\(a>0, a \neq 1\))であり、指数 $x$ が変数である関数を指します。
指数関数の定義
\(a\) を正の定数(\(a>0\) かつ \(a \neq 1\))とするとき、次の関数を「\(a\) を底とする指数関数」という。
\(y = a^x\)
ここで、底 \(a\) に「\(a>0\) かつ \(a \neq 1\)」という条件がつく理由を再確認しておきましょう。
- \(a>0\) である理由:
- 底 \(a\) が負またはゼロとすると、指数 \(x\) が有理数(例えば \(\displaystyle \frac{1}{2}\) や \(\displaystyle \frac{1}{4}\))のときに実数値が定義できない場合があるため、定義域を実数全体にするために \(a\) は正と定めます。
- 例:\((-2)^{\frac{1}{2}} = \sqrt{-2}\) は実数ではない
- \(a \neq 1\) である理由:
- \(a=1\) とすると、\(y=1^x = 1\) です。これは、常に一定値をとる定数関数(横一直線のグラフ)となり、指数関数の特徴的な性質を持たないため除外します。
2.2. グラフの形状を決定する「底 \(a\)」の役割
指数関数 \(y=a^x\) のグラフは、底 \(a\) の値によって2つのパターンに分かれます。
このグラフの形状が、後の指数不等式を解く鍵となります。
パターン1:底 \(a\) が 1 より大きい場合 (\(a > 1\))
例として、\(a=2\) の場合 (\(y = 2^x\)) を考えます。
| \(x\) | \(-2\) | \(-1\) | \(0\) | \(1\) | \(2\) | \(3\) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| \(y=2^x\) | \(\displaystyle \frac{1}{4}\) | \(\displaystyle \frac{1}{2}\) | \(1\) | \(2\) | \(4\) | \(8\) |
- \(x\) が増加するにつれて、\(y\) の値も急激に増加します。
- このとき、関数 \(y=a^x\) は増加関数(単調増加)であるといいます。
\(a>1\) のとき、指数が大きいほど、関数の値も大きくなります。
\(x_1 < x_2 \quad \Longrightarrow \quad a^{x_1} < a^{x_2}\)

パターン2:底 \(a\) が 0 より大きく 1 より小さい場合 (\(0 < a < 1\))
続いて、\(\displaystyle a = \frac{1}{2}\) (\(a = 0.5\)) の場合を考えます。(例:\(\displaystyle y = \left(\frac{1}{2}\right)^x = 2^{-x}\))
| \(x\) | \(-3\) | \(-2\) | \(-1\) | \(0\) | \(1\) | \(2\) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| \(\displaystyle y = \left(\frac{1}{2}\right)^x\) | \(8\) | \(4\) | \(2\) | \(1\) | \(\displaystyle \frac{1}{2}\) | \(\displaystyle \frac{1}{4}\) |
- \(x\) が増加するにつれて、\(y\) の値は減少します。
- このとき、関数 \(y=a^x\) は減少関数(単調減少)であるといいます。
\(0 < a < 1\) のとき、指数が大きいほど、関数の値は小さくなります。
\(x_1 < x_2 \quad \Longrightarrow \quad a^{x_1} > a^{x_2}\)

2.3. 指数関数のグラフの比較
上のグラフが示すように、\(y=a^x\) のグラフは、底 \(a\) の値にかかわらず、次の共通した特徴を持っています。
- 定点 (Fixed Point) を通る: すべてのグラフは必ず点 \((0, 1)\) を通ります。なぜなら、任意の底 \(a\) に対して \(a^0 = 1\) だからです。
- 定義域 (Domain): \(x\) はすべての実数をとります。(実数全体)
- 値域 (Range): \(y\) は必ず正の値をとります。 \(y > 0\) (正の実数全体)
- 漸近線 (Asymptote):グラフは \(x\) 軸(\(y=0\))に限りなく近づきますが、交わることはありません。この \(x\) 軸が漸近線です。
このグラフの単調性(\(a>1\) なら増加、 \(0<a<1\) なら減少)は、後の指数不等式を解く上で極めて重要な知識となります。
第3章:指数関数の重要な性質のまとめ
3.1. 基本的な範囲と構造
2.2. のグラフが示すように、\(y=a^x\) のグラフは、底 \(a\) の値にかかわらず、次の共通した特徴を持っています。
- 定点 (Fixed Point) を通る: すべてのグラフは必ず点 \((0, 1)\) を通ります。なぜなら、任意の底 \(a\) に対して \(a^0 = 1\) だからです。
- 定義域 (Domain): \(x\) はすべての実数をとります。(実数全体)
- 値域 (Range): \(y\) は必ず正の値をとります。 \(y > 0\) (正の実数全体)
- 漸近線 (Asymptote):グラフは \(x\) 軸(\(y=0\))に限りなく近づきますが、交わることはありません。この \(x\) 軸が漸近線です。
3.2. 単調性と一対一対応の性質
次の2つの性質は、グラフの形状から導かれる「方程式」・「不等式」を解く上で重要です。
- 単調性(増加・減少)
- \(a > 1\) : 単調増加関数(\(x_1 < x_2 \Rightarrow a^{x_1} < a^{x_2}\))
\(\Longrightarrow \) 不等号の向きは変わらない - \(0 < a < 1\) : 単調減少関数(\(x_1 < x_2 \Rightarrow a^{x_1} > a^{x_2}\))
\(\Longrightarrow \) 不等号の向きが反転する
- \(a > 1\) : 単調増加関数(\(x_1 < x_2 \Rightarrow a^{x_1} < a^{x_2}\))
- 一対一対応 (One-to-One Mapping)
- 異なる \(x\) の値には、必ず異なる \(y\) の値が対応します(水平線とグラフの交点は一つ)。
- この性質は、「\(a^{x_1} = a^{x_2}\) ならば、$x_1 = x_2$ である」という指数方程式の解法の根拠となります。
3.2. 指数法則の再確認
これまでの記事で学んだ指数法則は、指数が整数、有理数と拡張されてきましたが、第1章で無理数指数が定義されたことにより、すべての実数 \(x, y\) に対して成立することが保証されます。
- \(a^x a^y = a^{x+y}\)
- \(\displaystyle \frac{a^x}{a^y} = a^{x-y}\)
- \((a^x)^y = a^{xy}\)
- \((ab)^x = a^x b^x\)
- \(\displaystyle \left(\frac{a}{b}\right)^x = \frac{a^x}{b^x}\)
第4章:指数方程式と指数不等式
指数関数 \(y = a^x\) の単調性(増加または減少)と一対一対応の性質を利用することで、指数部分に変数が含まれる方程式や不等式を解くことができます。
4.1. 指数方程式の解法
指数方程式とは、\(a^x = b\) のように、指数に変数が含まれる方程式です。
\(a^{f(x)} = a^{g(x)}\) や、置き換えによってこの形に帰着できる方程式のように、指数に変数が含まれるものもあります。
解法のステップは次の通りです。
- 底の統一: 両辺の底 \(a\) を同じ値に統一します。
- 指数の比較: 「\(a^{x_1} = a^{x_2}\) ならば、\(x_1 = x_2\) である」という一対一対応の性質を利用し、指数同士を比較して方程式を解きます。
4.1.1. 【例題】基本的な指数方程式
方程式 \(8^x = 4^{x+1}\) を解いてみましょう。
- 底の統一: 両辺の底を \(2\) に統一します。
- \(8 = 2^3\) なので、 \(8^x = (2^3)^x = 2^{3x}\)
- \(4 = 2^2\) なので、 \(4^{x+1} = (2^2)^{x+1} = 2^{2(x+1)} = 2^{2x+2}\)
- 指数の比較: \(2^{3x} = 2^{2x+2}\) となったので、指数同士を比較します。
- \(3x = 2x + 2\)
したがって、答えは \(x = 2\) となります。
4.2. 指数不等式の解法
指数不等式とは、指数に変数が含まれる不等式です。
指数方程式とは異なり、底 \(a\) の単調性によって、不等号の向きが変わることに注意が必要です。
解法のステップは次の通りです。
- 底の統一: 両辺の底 \(a\) を同じ値に統一します。
- 底による単調性の確認: 底 \(a\) が \(1\) より大きいか小さいかを確認します。
- 指数の比較: 指数同士を比較しますが、底の範囲に応じて不等号の向きを変えます。
解法のポイントは単調性の利用
- 底 \(a > 1\) の場合(増加関数): 指数が大きいほど値が大きい。
- \(a^{x_1} < a^{x_2} \quad \text{ならば、} \quad x_1 < x_2\)
\(\Longrightarrow \) 不等号の向きは変わらない
- \(a^{x_1} < a^{x_2} \quad \text{ならば、} \quad x_1 < x_2\)
- 底 \(0 < a < 1\) の場合(減少関数): 指数が小さいほど値が大きい。
- \(a^{x_1} < a^{x_2} \quad \text{ならば、} \quad x_1 > x_2\)
\(\Longrightarrow \) 不等号の向きが反転する
- \(a^{x_1} < a^{x_2} \quad \text{ならば、} \quad x_1 > x_2\)
4.2.1. 【例題1】底が \(a > 1\) の指数不等式
不等式 \(3^{x} < 81\) を解いてみましょう。
- 底の統一: \(81 = 3^4\) なので、 \(3^x < 3^4\)
- 単調性の確認: 底 \(a=3\) は \(3 > 1\) なので、増加関数です。
- 指数の比較: 不等号の向きはそのまま。
したがって、答えは \(x < 4\) となります。
4.2.2. 【例題2】底が \(0 < a < 1\) の指数不等式
不等式 \(\displaystyle \left(\frac{1}{2}\right)^x \le \frac{1}{16}\) を解いてみましょう。
- 底の統一: \(\displaystyle \frac{1}{16} = \left(\frac{1}{2}\right)^4\) なので、 \(\displaystyle \left(\frac{1}{2}\right)^x \le \left(\frac{1}{2}\right)^4\)
- 単調性の確認: 底 \(\displaystyle a=\frac{1}{2}\) は \(\displaystyle 0 < \frac{1}{2} < 1\) なので、減少関数です。
- 指数の比較: 不等号の向きを反転させます。
したがって、答えは \(x \ge 4\) となります。
終わりに:指数の理解が拓く「対数」への扉
全3回に渡った「指数」の探求は、本記事を持って終幕です。
最初は「同じ数を何回掛けるか」という素朴な数え上げから、指数の学習は始まりました。
それが、マイナスの世界、分数の世界、そしてついには無理数を含む「実数」という広大な世界へと拡張され、さらに単なる「計算の道具」から、連続的な変化を記述する「関数」へと指数を昇華させるに至りました。
- 指数法則: 数の範囲が広がっても揺るがない、指数の世界の普遍的なルール。
- 単調性: グラフの動きを予測し、不等式を解くための性質。
次なるステップ:対数(log)の世界へ
さて、指数を完全にマスターした読者の目の前には、新しい扉が現れています。それが「対数(logarithm)」です。
指数が「\(a\) を \(x\) 乗したら何になるか?」という問いに答えるものだとしたら、対数はその逆、つまり「\(a\) が \(M\) になるには何乗すれば良いか?」という問いに答えるための概念です。
指数のシリーズを最後まで読み切ったあなたなら、必ず対数の本質も掴み取れることでしょう。
それでは、「対数シリーズ」でお会いできる日を楽しみにしています。


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