前回の記事では、指数を「自然数」から「整数」の範囲まで拡張し、どんな場合でも使える強力な5つの指数法則を確立しました。
これにより、複雑な計算も一貫したルールで処理できるようになりました。
しかし、指数の世界はこれで終わりではありません。
例えば、\(\sqrt{a}\)(平方根)や \(\sqrt[3]{a}\)(立方根)といった「累乗根」の計算であっても、指数法則を使えばスマートに解くことができます。
本記事では、指数をさらに「分数(有理数)」にまで拡張します。
この拡張によって、一見複雑な累乗根の計算が、すべて指数のシンプルな足し算や掛け算として扱えるようになります。
目次
第1章:累乗根(\(n\) 乗根 \(\sqrt[n]{a}\))の定義と基本性質
私たちが中学校で習う \(\sqrt{a}\) (平方根)は、「2乗すると \(a\) になる数」でした。
これを一般化し、累乗根と呼びます。
1.1. \(n\) 乗根 \(\sqrt[n]{a}\) の定義
ある数 \(x\) を \(n\) 回かけて \(a\) になるとき、すなわち \(x^n = a\) を満たす \(x\) を、 \(a\) の \(n\) 乗根と呼びます。
そのうち、実数であるものを \(\sqrt[n]{a}\) という記号で表します。
\(\sqrt[n]{a} \text{ は } (\sqrt[n]{a})^n = a \text{ を満たす数である。}\)
| 累乗根 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| \(\sqrt{a}\) | 平方根(2乗根) | 2乗すると \(a\) になる数(左上の 2 は省略される)。 |
| \(\sqrt[3]{a}\) | 立方根(3乗根) | 3乗すると \(a\) になる数。 |
| \(\sqrt[n]{a}\) | \(n\) 乗根 | \(n\) 乗すると \(a\) になる数。 |
具体的な例をいくつか挙げておきます。
- \(\sqrt{9} = 3\)
- 2乗すると 9 になる数なので、3
- \(\sqrt[3]{-8} = -2\)
- 3乗すると \(-8\) になる数なので、-2
- \(\sqrt[4]{16} = 2\)
- 4乗すると 16 になる数なので、2
1.2. 累乗根の計算ルール(基本性質)
累乗根には、計算を容易にするための基本的な性質がいくつかあります。
これらの性質は、次章で導入する分数指数を用いることにより、全て指数法則で説明できるようになります。
- ルール1: \(\sqrt[n]{a} \sqrt[n]{b} = \sqrt[n]{ab}\)
- ルール2: \(\displaystyle \frac{\sqrt[n]{a}}{\sqrt[n]{b}} = \sqrt[n]{\frac{a}{b}}\)
- ルール3: \((\sqrt[n]{a})^m = \sqrt[n]{a^m}\)
第2章:分数指数 \(\displaystyle a^{\frac{1}{n}}\) の定義
前回の記事(整数の指数)で、私たちは以下のような指数法則を学びました。
\((a^m)^n = a^{mn} \quad \text{(累乗の累乗)}\)
このシンプルな計算ルールを、累乗根 \(\sqrt[n]{a}\) の計算にも適用したいと考えます。
\(\sqrt[n]{a}\) を指数の形で表すことができれば、面倒なルートの計算が、指数の掛け算や足し算で処理できるようになるからです。
2.1. 指数法則を維持するための \(x\) の値
第1章で確認した累乗根 \(\sqrt[n]{a}\) の計算を、指数法則のシンプルなルールで処理する方法を考えます。
そのため、まず \(\sqrt[n]{a}\) を指数の形 \(a^x\) で表すことができると仮定します。
\(\sqrt[n]{a} = a^x \quad \text{と仮定する}\quad\cdots ①\)
このとき、\(a^x\) が整数の指数法則をそのまま維持できるという条件のもとで、指数 \(x\) がどのような値になるか考えてみましょう。
第1章の定義を復習すると、累乗根 \(\sqrt[n]{a}\) とは「\(n\) 乗すると \(a\) になる数」でしたね。
\((\sqrt[n]{a})^n = a \quad\cdots ②\)
上記の②に、①で仮定した \(\sqrt[n]{a} = a^x\) を代入すると、次のようになります。
\((a^x)^n = a\)
続いて、左辺に指数法則 \((a^m)^n = a^{mn}\) を適用し、右辺も指数表記 (1乗) に合わせます。
\(a^{x \times n} = a^1\)
両辺の指数同士を比較すると、次のようになります。
\(x \times n = 1\)
ここまで来れば、\(x\) の値が求められますね。
この等式を満たす \(x\) は、\(n\) の逆数である \(\displaystyle \frac{1}{n}\) 以外にありません。
\(\displaystyle x = \frac{1}{n}\)
2.2. 分数指数 \(\displaystyle a^{\frac{1}{n}}\) の確立(定義)
前セクション 2.1. で確認したとおり、既存の指数法則を崩さないという条件のもとで、\(\sqrt[n]{a}\) を指数で表す方法はただ一つしかありません。
この論理的な必然性に基づき、数学では分数指数 \(\displaystyle a^{\frac{1}{n}}\) を以下のように定義します。
\(\displaystyle a^{\frac{1}{n}} = \sqrt[n]{a}\)
2.3. 定義を使った計算例
新しい定義 \(\displaystyle a^{\frac{1}{n}} = \sqrt[n]{a}\) を使うことで、累乗根の計算が指数法則で処理できることを確認しましょう。
例 1: \(\sqrt[3]{8}\) の計算
\(\displaystyle \sqrt[3]{8} = 8^{\frac{1}{3}}\)
底の \(8\) を \(2^3\) に置き換えます。
\(\displaystyle 8^{\frac{1}{3}} = (2^3)^{\frac{1}{3}}\)
この形式にしたことで、指数法則 \((a^m)^n = a^{mn}\) を適用できます。
\(\displaystyle (2^3)^{\frac{1}{3}} = 2^{3 \times \frac{1}{3}} = 2^1 = 2\)
指数法則の計算で \(\sqrt[3]{8} = 2\) という結果を得ることができました。
第3章:一般の分数指数 \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}}\) の定義と計算
3.1. \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}}\) の定義:再び指数法則から導く
第2章で \(\displaystyle a^{\frac{1}{n}} = \sqrt[n]{a}\) と定義した際と同様に、この一般の分数指数 \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}}\) も、指数法則を維持することを条件に定義します。
分数 \(\displaystyle \frac{m}{n}\) は、 \(\displaystyle m \times \frac{1}{n}\) と見なすことができますね。
したがって、指数法則 \((a^p)^q = a^{pq}\) を利用すると、 \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}}\) は次のように変形できるはずです。
\(\displaystyle a^{\frac{m}{n}} = a^{m \times \frac{1}{n}} = (a^{\frac{1}{n}})^m\)
ここで、2.2. で確立した定義 \(\displaystyle a^{\frac{1}{n}} = \sqrt[n]{a}\) を代入します。
\(\displaystyle (a^{\frac{1}{n}})^m = (\sqrt[n]{a})^m\)
以上の論理的な流れに基づき、一般の分数指数 \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}}\) は次のように定義されます。
\(\displaystyle a^{\frac{m}{n}} = (\sqrt[n]{a})^m\)
上記 \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}} = (\sqrt[n]{a})^m\) の定義は、指数法則の交換法則 \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}} = a^{\frac{1}{n} \times m} = (a^m)^{\frac{1}{n}}\) を使って導くこともできます。
計算の順序が異なるだけで、どちらで計算しても結果は同じになりますが、計算を容易にするためには、\(\displaystyle a^{\frac{m}{n}} = (\sqrt[n]{a})^m\) の形を使うことが推奨されます。
理由としては、先に底 \(a\) の \(n\) 乗根を計算してから \(m\) 乗する方が、先に底 \(a\)を \(m\) 乗して大きい数にしてから\(n\) 乗根で計算するよりも、途中計算の数値が小さく保たれるため、計算ミスを防ぎやすくなるからです。
3.2. 分数指数で「指数法則」が適用可能に
分数指数 \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}}\) を導入した最大のメリットは、整数の指数で使えた全ての指数法則が、そのまま分数指数に対しても適用できるようになったことです。
これにより、分数指数を使った計算は、累乗根の性質を覚えるよりも遥かに簡単になります。
分数指数への適用を可能にする、主要な指数法則を再確認しましょう。(ここでは \(p, q\) は有理数、 \(a>0, b>0\) とします。)
| No. | 指数法則 | 計算例 |
|---|---|---|
| 1 | \(a^p a^q = a^{p+q}\) | \(\displaystyle a^{\frac{1}{2}} a^{\frac{1}{3}} = a^{\frac{1}{2}+\frac{1}{3}} = a^{\frac{5}{6}}\) |
| 2 | \(\displaystyle \frac{a^p}{a^q} = a^{p-q}\) | \(\displaystyle \frac{a^{\frac{3}{4}}}{a^{\frac{1}{4}}} = a^{\frac{3}{4}-\frac{1}{4}} = a^{\frac{2}{4}} = a^{\frac{1}{2}}\) |
| 3 | \((a^p)^q = a^{pq}\) | \(\displaystyle (a^{\frac{2}{3}})^6 = a^{\frac{2}{3} \times 6} = a^4\) |
| 4 | \((ab)^p = a^p b^p\) | \(\displaystyle (ab)^{\frac{1}{2}} = a^{\frac{1}{2}} b^{\frac{1}{2}}\) ※ \((\sqrt{ab} = \sqrt{a}\sqrt{b} \text{ と同じ})\) |
| 5 | \(\displaystyle \left(\frac{a}{b}\right)^p = \frac{a^p}{b^p}\) | \(\displaystyle (\frac{a}{b})^{\frac{1}{3}} = \frac{a^{\frac{1}{3}}}{b^{\frac{1}{3}}}\) ※ \((\sqrt[3]{\frac{a}{b}} = \frac{\sqrt[3]{a}}{\sqrt[3]{b}} \text{ と同じ})\) |
3.3. 負の分数指数 \(\displaystyle a^{-\frac{m}{n}}\) の定義
ここまでで、正の分数指数(\(\displaystyle a^{\frac{m}{n}}\))の計算は、正の整数指数の法則に完全に統合されました。
残るは負の分数指数です。
負の分数指数 \(\displaystyle a^{-\frac{m}{n}}\) は、以下の2つの定義の組み合わせで導出できます。
- 負の整数指数の定義(第1回記事で定義済み):
- \(\displaystyle a^{-p} = \frac{1}{a^p}\)
- 正の分数指数の定義(第3章で定義済み):
- \(\displaystyle a^{\frac{m}{n}} = (\sqrt[n]{a})^m\)
この2つを組み合わせると、負の分数指数 \(\displaystyle a^{-\frac{m}{n}}\) は次のように定義されます。
\(\displaystyle a^{-\frac{m}{n}} = \frac{1}{a^{\frac{m}{n}}} = \frac{1}{(\sqrt[n]{a})^m}\)
3.4. 分数指数による計算の実例
分数指数に慣れると、累乗根の性質(第1章のルール)を一つ一つ覚えて使わなくても、指数法則だけで複雑な計算を処理できるようになります。
例1: 累乗根同士の割り算
\(\displaystyle \frac{\sqrt[3]{a^2}}{\sqrt[6]{a^5}}\)
- 分数指数に直す (\(\displaystyle a^{\frac{m}{n}} = \sqrt[n]{a^m}\) を利用)
- \(\displaystyle \frac{a^{\frac{2}{3}}}{a^{\frac{5}{6}}}\)
- 指数法則2 (\(\displaystyle \frac{a^p}{a^q} = a^{p-q}\)) を適用
- \(\displaystyle a^{\frac{2}{3}-\frac{5}{6}} = a^{\frac{4}{6}-\frac{5}{6}} = a^{-\frac{1}{6}}\)
- 累乗根に戻す(必要であれば)
- \(\displaystyle a^{-\frac{1}{6}} = \frac{1}{a^{\frac{1}{6}}} = \frac{1}{\sqrt[6]{a}}\)
例2: 累乗根の中に累乗根がある場合
\(\displaystyle \sqrt[4]{\sqrt[3]{a^2}}\)
- 分数指数に直す(外側の根号から)
- \(\displaystyle \sqrt[4]{a^{\frac{2}{3}}} = (a^{\frac{2}{3}})^{\frac{1}{4}}\)
- 指数法則3 (\((a^p)^q = a^{pq}\)) を適用
- \(\displaystyle a^{\frac{2}{3} \times \frac{1}{4}} = a^{\frac{2}{12}} = a^{\frac{1}{6}}\)
- 累乗根に戻す(必要であれば)
- \(\displaystyle a^{\frac{1}{6}} = \sqrt[6]{a}\)
第4章:まとめと次のステップ
今回の記事を通して、累乗根の概念から出発し、指数法則を維持するという条件のもと、指数を分数に拡張しました。
この定義を、すでに確立済みのゼロ指数や負の整数指数の定義と統合することで、指数が有理数全体にまで拡張されました。
これにより、すべての有理数指数 \(a^p\) の計算が可能となりました。
次回のステップ:指数関数へ
今回の記事で、指数 \(x\) は有理数全体に拡張されました。
しかし、関数 \(y=a^x\) のグラフを考えるとき、数直線上のすべての点(実数)でグラフが途切れず連続である必要があります。
現在の有理数のみを指数とする定義では、\(\sqrt{2}\) や \(\pi\) のような無理数の箇所にグラフの「穴」が開いてしまいます。
この「穴」を埋め、真に連続したグラフを持つ指数関数を定義するためには、指数を無理数(実数全体)にまで拡張する必要があります。
次回は、この実数指数を土台として、指数関数 \(y=a^x\) のグラフが持つ基本的な性質、特に底 \(a\) の値によってどのように変化するのかを、具体的に解説していきます。

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