「0が20個も並ぶような巨大な数字、どうやって計算するの?」
「\(10^{20}\) と \(10^{21}\)、たった1の違いに見えるけど、実際は10倍も違う……」
指数を学んだ私たちは、数が爆発的に増えていく様子(指数関数的増加)を知っています。
しかし、あまりに巨大な数をそのまま扱うのは、プロの数学者や天文学者にとっても至難の業でした。
そこで発明されたのが「対数 (log)」です。
対数は、天文学者が一生かけて行う計算を数分に短縮したと言われるほどの「計算革命」でした。
今回は、指数シリーズ3部作で身につけた指数のルールをそのまま使いながら、対数の扉を開いていきましょう。
目次
第1章:対数は「指数の裏返し」にすぎない
「対数 (log)」という新しい言葉に身構える必要はありません。
対数の正体は、これまで見てきた指数の式を「別の角度から眺めたもの」だからです。
そうすると今度は、「指数を深く理解していないと、対数には手も足も出ないのかな」と不安になるかもしれませんが、それも心配ご無用です。
指数について完全に理解できていなくても、対数の学習に進むことは十分に可能です。
ただし、対数の正体は「指数の裏返し」であるため、指数シリーズで学んだことのうち、「これだけは外せない」というポイントがいくつかあります。
対数に進む前に、下記3つのポイントが「なんとなくイメージできているか」をセルフチェックしてみてください。
- 「底」と「指数」の関係がわかっているか:
対数は、「\(2\) を何乗したら \(8\) になるか?」という問いに答えるためのものです。- \(2^3 = 8\) という数式の、「2」が「底」で、「3」が「指数」であると分かる状態であれば、対数の書き方(\(\log_2 8 = 3\))をスムーズに受け入れられます。
- 「指数の拡張」のイメージがあるか:
対数の世界でも、「\(\log\) の中身が分数」だったり「答えがマイナス」になったりします。
下記パターンのイメージが頭に残っていれば、対数の計算でパニックになることはないでしょう。- \(\displaystyle 2^{-1} = \frac{1}{2}\) 👈マイナス乗は逆数
- \(2^{1/2} = \sqrt{2}\) 👈分数乗はルート
- 指数関数の「単調性」を覚えているか(重要):
- 対数不等式を解くとき、指数で学んだ「底が1より小さいと不等号が反転する」というルールがそのまま登場します。記憶があいまいな方は復習しておくことをお勧めします。
セルフチェックに見事合格した方は、早速『対数』の世界に飛び込んでいきましょう。
1.1. 視点を変えてみよう
まずは、以下の数式を見てください。
\(2^3 = 8\)
これは「2を3回掛けると8になる」という意味でしたね。
対数は、この中の指数「3」を主役にする書き方です。
「2を8にするには、何乗すれば良いですか?」という問いと、その答えが \(\log\) を使った数式になります。
\(\log_2 8 = 3\)
👆
式の意味:「2を8にするには? = 3乗すれば良いですよ!」
1.2. 数式の各部分の呼び名
対数の式において、それぞれの数字には次のような名前がついています。
\(\log_2 8 = 3\)
- 底: 上記の式では \(2\) 。指数のときと同じ呼び名です。
- 真数: 上記の式では \(8\)。\(\log\) の右に書く「数そのもの」です。
- 対数: 上記の式では \(3\)。何乗すれば真数になるのかの答えであり、\(\log_2 8\) という記号全体が表している「値」です。
1.3. 対数の一般定義式
数学では、指数と対数の関係を一般的に次のように定義されます。
\(a > 0, \ a \neq 1\) とし、\(M > 0\) のとき、
\(a^p = M \quad \iff \quad \log_a M = p\)
ここで、「指数の \(p\)」と「対数の値 \(p\)」が同じものであることに注目してください。
\(\log_a M\) という記号は、一見すると複雑な「新しい数」のように見えますが、その正体はあくまで「\(a\) を \(M\) に変えるために必要な『指数のパワー』」を表しているにすぎません。
指数を表す文字が p である理由
「指数」は、英語で「power」と言います。この頭文字をとって指数を p としています。
「真数」が M である理由は、「magnitude」の頭文字という説がありますが、定かではありません。
第2章:logを使うと計算が楽になる
「書き方が変わるだけなら、指数のままでもいいじゃないか」と思うかもしれません。
しかし、対数には指数にはない、計算を劇的に簡単にする力があります。
2.1. 「掛け算・割り算」を「足し算・引き算」に変換
「巨大な数同士の掛け算を指数 (対数) の足し算に、割り算を引き算に変換できる」という能力は、対数の最大の強みと言って良いでしょう。
例えば、次の計算をしてみましょう。
- 普通の計算: \(1,000,000 \times 100,000,000,000 = ?\)
- ゼロが多すぎて読みづらいですし、ゼロを数え間違え、書き間違えやすくもなります。
- 対数の世界: 「\(\log_{10}\)」 の視点で見れば、それぞれ値は 「6」と「11」です。「0が6個」と「0が11個」を足し算して、答えは「0が17個」。
このように、数をそのままの大きさで扱うのではなく、「何乗か」という目盛り(指数)を主役にして計算を進めるのが対数です。
指数のルールを知っている方なら、対数の力の半分は既に使いこなしているようなものなのです。
2.2. 「対数は天文学者の寿命を2倍にした」と言われる理由
冒頭でも触れましたが、対数の発明は17世紀の科学に革命を起こしました。
当時の天文学者たちは、惑星の軌道を計算するために、8桁や10桁といった膨大な数値の掛け算・割り算を、すべて手計算で行っていました。
ひとつの計算に数ヶ月かかることも、珍しくはなかったのです。
そんな状況の中、対数が発明されたことで、計算の手順は次のように変わりました。
- 膨大な数字を「対数表」を使って logの値(指数) に変換する。
- それらを 足し算(または引き算) する。
- 出た答えを再び「対数表」で元の数に戻す。
この手順を踏むだけで、計算時間がそれはもう劇的に短縮されたと言います。
これが、「対数は天文学者の寿命を2倍に延ばした」と称賛される理由です。
現代の私たちが log を学ぶのも、この「巨大なスケールを扱いやすくする力」を手に入れるためなのです。
第3章:指数を知り、logをもっと簡単に
対数を理解する最短ルートは、新しい公式を丸暗記することではありません。
対数の計算は「指数のルール」の裏返しになっているからです。
指数についてまとめたシリーズ記事を復習いただくのが最善ですが、たとえ指数の知識に自信がなくても大丈夫です。
ここで対数と一緒に確認していくことで、両方の感覚を一度に身につけることもできます。
3.1. 「指数の感覚」で答えを出す
対数の値を求めることは、「底を真数にするには何乗すれば良いか?」を当てるパズルのようなものです。
いくつかの例で、指数の知識を「逆引き」してみましょう。
| 対数 | 考え方 (指数の知識) | 答え |
|---|---|---|
| \(\log_2 1\) | \(2\) を\(1\) にするには 何乗する? → \(0\) 乗 | \(0\) |
| \(\displaystyle \log_2 \frac{1}{2}\) | \(2\) を\(\displaystyle\frac{1}{2}\) (逆数)にするには 何乗する? → \(-1\) 乗 | \(-1\) |
| \(\log_2 \sqrt{2}\) | \(2\) を\(\sqrt{2}\) にするには 何乗する? → \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 乗 | \(\displaystyle\frac{1}{2}\) |
このように、「\(0\) 乗は \(1\)」「マイナス乗は逆数」「\(\displaystyle\frac{1}{2}\) 乗はルート」といった指数のルールを対数という窓から覗き込むことで、難しそうな記号(\(\displaystyle\log_2 \frac{1}{2}\) など)も、「なんだ、指数と変わらないな」と直感的に理解できるようになります。
3.2. 「新しい数」ではなく「知っている数」
\(\log\) の計算でつまずく人の多くは、\(\log_a M\) を何か全く新しい、複雑な数値だと思い込んでしまいます。
しかし、この表を見ればわかる通り、\(\log\) の正体は私たちが扱ってきた「指数」そのものです。
「新しい公式を覚える」のではなく、「すでに知っている指数の関係に、\(\log\) という名前がついただけ」だと気づけば、対数はぐっと身近な存在になるはずです。
第4章:実数の範囲内で対数を扱うための「ルール」と「制約」
どんな便利な道具にも安全に使うためのルールがあるように、対数にも「底」と「真数」に守るべき決まりがあります。
これは、指数シリーズで学んだ(あるいはこれから知る)「指数関数の性質」からきている、とても合理的なルールです。
ただし、章のタイトルにもあるとおり「対数を実数の範囲内で」扱う場合のルールです。
大学レベルの数学(複素関数論)ではこの制約を広げて考えますが、高校数学を含む一般的な実数の世界では、以下のルールが「絶対の定義」となります。
4.1. 底の条件:\(a > 0\) かつ \(a \neq 1\)
対数の底 \(a\) には、次の2つの制約があります。
- マイナスの底はNG (\(a > 0\)) :
- もし底がマイナスだと、何乗かするたびに答えがプラスになったりマイナスになったりして、値が安定しません。そのため、対数の世界では底は必ず正の数(プラス)と決まっています。
- 底が1はNG (\(a \neq 1\)):
- 1は何乗しても1のままです。「1を8にするには何乗すれば良い?」という問い(\(\log_1 8\))は、答えが存在しないので、ルールから除外されています。
4.2. 真数の条件:\(M > 0\)
もうひとつ、非常に重要なのが真数 \(M\) の条件です。
\(\log_a M\) の \(M\) 、つまり真数は必ず正の数(プラス)でなければなりません。
「底」も正の数であるという制約上、これは自明の理で、正の数である「底」を何乗しても結果(\(M\))がマイナスやゼロになることは絶対にないからです。
「マイナスの数の対数は存在しない」というのは、数学的にとても重要なポイントです。
これを「真数条件」と呼びます。
まとめ:対数は「指数の着せ替え」
今回は、対数 (log) の第一歩として、その定義と考え方を見てきました。
- 対数は指数の裏返し: \(a^p = M\) の「指数 \(p\)」を主役にした書き方が \(\log_a M = p\) です。
- 計算の救世主: 膨大な桁数や、桁違いの掛け算を「足し算」に、割り算を「引き算」に変えてくれる、強力な計算ツールです。
- ルールは必然: 「底」と「真数」がプラスでなければならないのは、実数の世界で指数を扱うための絶対の掟があるからです。
対数という新しい記号に出会うと、つい「公式を暗記しなきゃ!」と構えてしまいがちですが、その正体はあなたがすでに知っている、あるいはこれから親しんでいく「指数の力」そのものです。
この「指数と対数はセットである」という感覚さえ持っていれば、次回のステップで学ぶ「対数法則(公式)」も、驚くほどスムーズに頭に入ってくるはずです。


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