前回の記事「展開」で、代数計算の礎となる公式を習得し、練習問題で知識を定着された皆様、お疲れ様でした!
「展開」は式を広げる作業でしたが、今回学ぶ「平方完成(Completing the Square)」は、代数操作のテクニックです。
これは、二次方程式の解の公式を導く基礎であり、高校数学の最重要スキルの一つとも言えます。
さらに、このスキルは量子力学においても鍵となります。
複雑なポテンシャル(粒子のエネルギーの地形)を扱う際、平方完成を使うことで式の形をシンプルで意味のある形に整理し、最小エネルギーや安定した状態を瞬時に読み取ることができるようになるからです。
今回は、前回の展開の知識を総動員し、「\(x^2\) の係数が \(1\) ではない場合の処理」など、応用的な平方完成の極意を完全に習得することを目指しましょう。
目次
第1章:平方完成とは 👉 展開の逆利用
平方完成とは、二次関数 \(y = ax^2 + bx + c\) を、グラフの頂点の座標がわかる形である標準形 \(y = a(x – p)^2 + q\) に変形する操作です。
\(\mathbf{p}\) は頂点の \(\mathbf{x}\) 座標(グラフの左右の位置)を、\(\mathbf{q}\) は頂点の \(\mathbf{y}\) 座標(グラフの上下の位置、つまり最小値・最大値)を決定します。
この操作の原理は、前回学んだ和と差の平方の公式、つまり完全平方式にあります。
【差の平方の公式】\(\quad (x – a)^2 = x^2 – 2ax + a^2\)
※ \(\quad (x – a)^2\) 👈 これが完全平方式
平方完成は、元の式 \(\mathbf{x^2 – 2ax}\) という不完全な式を見て、
「あと \(a^2\) があれば、\(\mathbf{(x – a)^2}\) という完全な二乗の塊になる!」
と考え、その足りない \(a^2\) を強引に「足して引く」ことで形を変えるテクニックなのです。
鍵となる数 \(a\) の見つけ方
\(x^2 + \mathbf{b}x\)
\( \quad \to \quad a = \frac{\mathbf{b}}{2}\)
\( \quad \to \quad \text{足すべき数 } a^2 = \left(\frac{b}{2}\right)^2\)
第2章:基本の型を徹底習得:係数が \(1\) の場合
まずは、最も基本となる \(x^2\) の係数が \(1\) の型で、操作手順を体に染み込ませるため、例題を示します。
解き方のヒントも記述していますが、読むだけではなく、実際に自分でも解いてみてくださいね。
例題1:定数項がない場合
以下の二次関数を平方完成せよ。
\(y = x^2 + 10x\)
ヒント:
- 鍵となる数 \(a\) を特定: \(x\) の係数 \(\mathbf{+10}\) の半分は \(\mathbf{+5}\)。
- 必要な \(a^2\) を足して引く: \(5^2 = \mathbf{25}\) を足して引きます。
👉 \(y = (x^2 + 10x + \mathbf{25}) – \mathbf{25}\) - 変形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
\(y = \mathbf{(x + □)^2 – □}\)
答えを見る
\(y = \mathbf{(x + 5)^2 – 25}\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(-5, -25)}\)
注意すべきポイント:頂点座標の符号ルール
正解の式は \(y = \mathbf{(x + 5)^2 – 25}\) なのに、頂点の座標は \(\mathbf{(-5, -25)}\) です。
なのに、なぜ最初の\(5\)はマイナスなのかと、答えを見て不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。
これは、多くの初学者がつまずく重要ポイント、頂点座標の符号ルールによるものです。
標準形 \(y = a(x – p)^2 + q\) における頂点 \(\mathbf{p}, \mathbf{q})\) を見るとき、次の非対称なルールを意識しましょう。
| 要素 | 場所 | ルール |
|---|---|---|
| \(x\) 座標 (\(p\)) | カッコの内側 | 符号を反転させる |
| \(y\) 座標 (\(q\)) | カッコの外側 | 符号はそのまま |
\(x\) 座標 (\(p\)) の符号が反転する理由は、頂点の \(x\) 座標は、括弧の中を \(\mathbf{0}\) にする \(x\) の値だからです。
\(\mathbf{(x+3)}\) なら \(\mathbf{x=-3}\) で \(0\) になります。
それに対し、\(y\) 座標 (\(q\)) は、グラフ全体の上下移動(最小値・最大値)をそのまま表しているため符号は反転させず、そのままです。
例題1:定数項がある場合
以下の二次関数を平方完成せよ。
\(y = x^2 – 4x + 7\)
ヒント:
- 鍵となる数 \(a\) を特定: \(x\) の係数 \(\mathbf{-4}\) の半分は \(\mathbf{-2}\)。
- 必要な \(a^2\) を足して引く: \(-2^2 = \mathbf{4}\) を足して引きますが、今回は定数項の\(7\)があるので注意してください。
👉 \(y = (x^2 – 4x + \mathbf{4}) – \mathbf{4} + 7\) - 変形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
\(y = \mathbf{(x + □)^2 – □}\)
答えを見る
\(y = \mathbf{(x – 2)^2 + 3}\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(2, 3)}\)
第3章:難所の克服:係数 \(a \ne 1\) の場合
量子力学で扱う数式では、常に \(x^2\) の係数が \(1\) とは限りません。
むしろ、\(x^2\) の係数に、粒子の質量やポテンシャルの強さなど、\(\mathbf{1}\) ではない物理的な定数が関わってくる場合がほとんどです。
したがって、平方完成のスキルとしては、係数 \(a \ne 1\) の処理(括り出しと分配)こそが、最も重要かつ実用的なスキルであると言えます。
この応用的な処理こそが、平方完成の極意です。
絶対ルール:
平方完成を始めるには、必ず \(x^2\) の係数を \(1\) にしなければなりません。
例題3:係数がある場合の計算
以下の二次関数式を平方完成せよ。
\(y = 2x^2 + 8x – 1\)
ヒント:
- 係数で括り出す: \(x^2\) と \(x\) の項を、係数 \(\mathbf{2}\) で括り出します。
👉 \(y = \mathbf{2}(\mathbf{x^2 + 4x}) – 1\) - 括弧の中を平方完成: 括弧の中の \(\mathbf{x^2 + 4x}\) だけを、鍵となる数 \(a^2 = 2^2 = \mathbf{4}\) を使って変形します。
👉 \(y = 2\{(x – 2)^2 – \mathbf{4}\} – 1\)
(ここでは、中括弧 \(\{ \}\) を使って、外側に括り出した \(2\) と分けるのがポイントです) - 係数を分配し整理 (最重要): 外側の \(\mathbf{2}\) を中括弧の中の両方の項にかけます。
👉 \(y = 2(x + 2)^2 + (\mathbf{2} \times \mathbf{-4}) – 1\)
👉 \(y = 2(x + 2)^2 – 8 – 1\) - 最終形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
\(y = \mathbf{2(x + □)^2 – □}\)
答えを見る
\(y = \mathbf{2(x + 2)^2 – 9}\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(-2, -9)}\)
例題4:係数が負の場合の計算 (符号に注意)
以下の二次関数式を平方完成せよ。
\(y = -3x^2 + 6x – 4\)
ヒント:
- 係数で括り出す: \(x^2\) と \(x\) の項を、係数 \(\mathbf{-3}\) で括り出します。 (注: \(6x\) を \(-3\) で割るため、符号が変わります! \(6 / (-3) = -2\))
👉 \(y = \mathbf{-3}(\mathbf{x^2 – 2x}) – 4\) - 括弧の中を平方完成: 括弧の中の \(\mathbf{x^2 – 2x}\) だけを、鍵となる数 \(a^2 = (-1)^2 = \mathbf{1}\) を使って変形します。
👉 \(y = -3\{(x – 1)^2 – \mathbf{1}\} – 4\)
(ここでは、中括弧 \(\{ \}\) を使って、外側に括り出した \(-3\) と分けるのがポイントです) - 係数を分配し整理 (最重要): 外側の \(\mathbf{-3}\) を中括弧の中の両方の項にかけます。
👉 \(y = -3(x – 1)^2 – (\mathbf{-3} \times \mathbf{-1}) – 4\)
👉 \(y = 2(x – 1)^2 + 3 – 4\) - 最終形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
\(y = \mathbf{2(x – □)^2 – □}\)
答えを見る
\(y = \mathbf{2(x – 1)^2 – 1}\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(1, -1)}\)
例題5:分数が登場する場合の処理 【応用】
以下の二次関数式を平方完成せよ。
\(y = 4x^2 – 2x + 5\)
ヒント:
この二次関数は係数 \(2\) で括り出せば 分数を使わずに済むのですが、\(4\) で括り出します。
なぜ \(2\) ではなく、係数 \(\mathbf{4}\) でなければならないのでしょうか?
それは、平方完成を始めるための絶対ルールだからです。
平方完成のテクニック(\(x\) の係数を半分にして二乗する)は、必ず \(x^2\) の係数が \(\mathbf{1}\) であるという前提でのみ機能します。
そのため、元の係数(この場合は \(4\))で \(x\) の項までを強制的に括り出し、\(x^2\) の係数を \(1\) にする必要があるのです。
- 係数で括り出す: \(x^2\) と \(x\) の項を、係数 \(\mathbf{4}\) で括り出します。 (注: \(-2x\) を \(4\) で割ると、\(\mathbf{\frac{-2}{4} = -\frac{1}{2}}\) となります。)
👉 \(y = \mathbf{4}(\mathbf{x^2 – \frac{1}{2}x}) + 5\) - 括弧の中を平方完成: 鍵となる数 \(a\)は \(-\frac{1}{2}\) の半分 \(-\frac{1}{4} \) です。 \(a = -\frac{1}{2} \div 2 = -\frac{1}{4}\) を使って変形します。
👉 \(y = 4\left\{\mathbf{\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 – \frac{1}{16}}\right\} + 5\) - 係数を分配し整理: 外側の \(\mathbf{4}\) を中括弧の中の両方の項にかけます。
👉 \(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 + \left(\mathbf{4} \times \mathbf{-\frac{1}{16}}\right) + 5\)
【定数項の計算】
\(\mathbf{4 \times \left(-\frac{1}{16}\right) = -\frac{4}{16} = -\frac{1}{4}}\)
👉 \(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 – \frac{1}{4} + 5\)
👉 \(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 \mathbf{+ \left(5 – \frac{1}{4}\right)}\)
👉 さらに通分します。\(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 + \left(\frac{20}{4} – \frac{1}{4}\right)\) - 最終形: 以下の式内の□に当てはまる数を答えます。
\(y = \mathbf{4(x – □)^2 + □}\)
答えを見る
\(y = 4\left(x – \frac{1}{4}\right)^2 + \frac{19}{4}\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(\frac{1}{4}, \frac{19}{4}\right)}\)
第4章:分数入り平方完成 集中特訓
練習問題1
次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。
\(y = 2x^2 + 6x – 5\)
ヒント:
\(6\) を \(2\) でくくり出すと、\(6 \div 2 = 3\) になります。\(3\) の半分は \(\frac{3}{2}\) です。
答えを見る
\(y = 2\left(x + \frac{3}{2}\right)^2 – 14\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(-\frac{3}{2}, -14\right)}\)
練習問題2
第2問目は負の係数が絡んでくる問題に挑戦し、符号ルールも同時に確認しましょう。
次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。
\(y = -4x^2 – 12x + 1\)
ヒント:
係数 \(\mathbf{-4}\) でくくり出す際、括弧の中の符号がどうなるか注意してください。
答えを見る
\(y = -4\left(x + \frac{3}{2}\right)^2 + 10\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(-\frac{3}{2}, 10\right)}\)
練習問題3
次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。
\(y = 3x^2 – 2x + 4\)
ヒント:
\(3\) で括り出すと、\(x\) の係数は \(\mathbf{-2/3}\) となります。この半分は \(\mathbf{-1/3}\) です。
答えを見る
\(y = 3\left(x – \frac{1}{3}\right)^2 – \frac{13}{3}\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(\frac{1}{3}, -\frac{13}{3}\right)}\)
練習問題4
次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。
\(y = -5x^2 + 10x + 2\)
ヒント:
\(\mathbf{-5}\) で括り出す際の符号に注意してください。今回は定数項の通分は比較的簡単です。
答えを見る
\(y = -5(x – 1)^2 + 7\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{(1, 7)}\)
練習問題5
次の二次関数を平方完成し、頂点の座標を求めてください。
\(y = -2x^2 + 5x – 3\)
ヒント:
\(-2\) でくくり出すと、\(x\) の係数は \(\mathbf{-\frac{5}{2}}\) となります。この半分の計算に細心の注意を払ってください。
答えを見る
\(y = -2\left(x – \frac{5}{4}\right)^2 + \frac{1}{8}\)
\(\to \text{頂点の座標は } \mathbf{\left(\frac{5}{4}, \frac{1}{8}\right)}\)
まとめ
今回の「平方完成の極意」を習得することで、代数操作のスキルを大きく向上させられます。
平方完成は、エネルギー最小化やポテンシャル井戸の問題など、量子力学の数式を解析的に解くための強力な武器となります。
特に、係数の括り出しと分配のステップや、最後の分数を使用した応用問題は、何度でも反復して練習してください。
分数が入ってくると、計算手順が増えるだけでなく、「通分」という追加の手間がかかるため、面倒でミスも増えやすくなります。
しかし、量子力学の数式では、分数の係数が頻繁に出てきます。
これは、物理的な定数(質量 \(m\) やプランク定数 \(\hbar\) など)が分数や定数の逆数として現れるためです。
よって、この面倒な分数計算を正確にやり遂げる粘り強さが、量子力学の数式を解き進めるために非常に重要になります。
今は面倒に感じるかもしれませんが、繰り返し練習することで、この計算はパターン化され、速度と正確さが劇的に向上します。
次回は、学び直し数学シリーズ第3回として『大人の学び直し数学③:三角比の基礎』に進みます。
それでは、また次回の学び直しでお会いしましょう。


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